名作を味わう【夏目漱石・それからについて】


漱石作品がスキである。
スキというよりも自分のバイブルとなっているので、もう仕方がない。
漱石先生の真似をすることも多い。
スープのことをソップと言ったり、ジャムをやたらたくさん舐めたり。
鼻毛を抜いて並べたり、、、。
家を作る時も、漱石先生が住んでいた早稲田の家を真似て設計しようとした。
でも結構その家の敷地は広くて断念せざるを得なかったのが残念。
先生のようにデッキで椅子に座りたかった。
今も自分の中では昭和・平成・令和の漱石といわれるような小説を書いてみたいと思っている。
しかし、ただ真似をしているだけでは到底及ばないことは百も承知。
漱石先生が、新聞小説の専属になって、毎回読者の面白がる話を書いていくのは相当に大変だったと思う。
今の新聞小説はほとんど読まない。
内容があまりにも幼稚。
こんなもので、いいのか?
こんな話を掲載されて、恥ずかしくないのか?
小説家としての矜持はどこへ?
そう思ってしまう。
漱石先生は、ものすごく悩み、ストーリーを組み立てるのに苦労したはず。
晩年は、午前中に次の回の分を書いて、午後はゆったりしていたというが、、、。
自分がもし小説や絵本を発表するとしたら、もう10年以上は先ではないかな。
漱石先生に見られても恥ずかしくないものを書きたい。
そう思うから。
【それから】について

漱石先生の作品の中でも【それから】は、秀逸。
読めば読むほど新たな発見があり、ときめきがあり、勇気が湧く。
書き出しも、うっとりする。
俎板下駄の音がするのは、誰かが来たから?
漱石先生は、夢についての考察をしていたので、自然とこのような表現になる。
漱石先生の作品を読むとウキウキする。
なぜ、こんなにも高揚するのかというと、自分の人生と重なっているからじゃないかと思う。
重なっているのではなく、重ねたから。
私がいま結婚しているひとは、元は人の彼女だったし、自分も妻帯者だったから。
「自然の愛」
自分ではそう思いこんでいる。
心底一緒にいたいと思った人は、これまでにそうはいないし、そんな激しい感情が、年甲斐もなく自分の中に生まれようとは予想だにしなかったから。
最後の場面で、仕事を探しに主人公の代助が奔走する。
焦っている情景が、色であらわされている。
やがて世の中が真っ赤になって頭の中を駆け巡っていく。
自分も、同じように精神的に追い詰められるような体験をしてから理解できた。
世間からも、仲間からも、家族からもそっぽを向かれ、社会的な信用をも失う。
そんな焦燥感を短い文章の中で、的確に表現していることにも驚く。
「自然の愛」の勝者にはなり得たが、社会的に抹殺されていくこと。
大事なものを得た喜びの裏にある喪失感。
利口な者なら、そんな行動はとらないだろう。
「それから」のあらすじ
資産家の家に生まれ、父親と兄のおかげで、何不自由なく仕事もしないで暮らす主人公の代助。
いい学校をまあまあの成績で卒業したが、いい年をして家庭も持っていない。
毎日、好きな本を好きなだけ注文して読み、芝居を楽しんだり食事に行ったりする【高等遊民】として暮らしている。
代助には、学生時代に親友がいた。
その親友とその妹【美千代】と代助は、3人で心を通じさせ過ごしていたが、ある時親友は亡くなってしまう。
妹を託された代助は、「自然」のままに一緒になるはずだったが、同じく同級生で仲良くしていた平岡も、美千代を妻にしたいと代助に打ち明ける。
自分の気持ちを抑え、義侠心から代助は平岡の頼みを聞き、美千代は平岡の所へ嫁ぐことになった。
何年か後、平岡からの連絡があり久し振りに会うと、仕事がうまくいかなくなって、前の仕事は自分が責任を取って辞めたという。
代助は美千代のことが気になって尋ねるが、もう平岡と美千代とのの関係は冷めきっていた。
そんな時、代助の父から、見合いの話が持ち込まれ、いつの間にか、観劇という機会を口実に見合いをさせられる。
実は父親と兄の会社の経営が悪化してきたので、確かな後ろ盾が必要なための政略結婚のたくらみだった。
代助はなかなかいい返事をしない。
生活費を潤沢に貰っていることもあるし、ここで「いいでしょう」と結婚の承諾をすれば丸く収まるが、、、。
代助には気になっていることがあった。
美千代のことである。
ある日、決心をした代助は美千代を自分の家に呼び出す。
そして、「自分の人生にはあなたが必要だ」ということを告げる。
それを聞いた美千代は、なぜあの時に棄ててしまったのかと訴え、涙する。
しばらくして、「覚悟を決めましょう」と切り出す美千代。
そのあと、代助は平岡に事の一部始終を打ち明け、美千代を貰いたいと懇願する。
平岡は、承諾するが、代助の父親や兄にそのことを話し、代助は勘当されてしまう。
美千代はそのあと体を壊し、寝込んでしまうが、代助は会わせてもらえない。
病が治ったら引き渡すと言われ、代助は何度も美千代の門前に佇む。
この後の生活費は自分で賄わなければならなくなった代助は、仕事を探しに街に出る。

森田芳光の監督作も見どころあり。
ただ、主人公役の松田優作が自分としては気に入らない。
もう少し頭のよさそうな役者はいなかったのか、、、。
「それから」の見どころ読みどころ
代助と美千代が接見する場面はドキドキします。
華のある言葉は全くないけれども、二人の心が結ばれているのが分かる。
あたかも自分が代助になったような感覚。
ひとのものは欲しくなるということがあるが、そんな感覚もあるのかもしれない。
代助が昼寝をしていると、ふっと誰かが来たような感じがする。
こんなシーンもある。
美千代が一度訪ねてきたのだ。
この場面もなかなか気に入っている。
用事を済ませて、美千代がもう一度代助の門をたたく。
あまり息が切れているので、水を取りに行った代助だったが、美千代は白百合の鉢の水を飲んでしまう。
これがまたセクシーな感じを醸し出している。
漱石先生の技巧【テクニック】。
同じようなテクニックは【行人】の中にもあって、もっとドキドキ感は強い。
兄嫁と偶然に一緒の部屋に泊まることになってしまったシーン。
兄嫁は、停電になった時に、浴衣に着替える。
主人公が嫂さんどこにいるんですかと聞けば、触って確かめればいいと言ったり、、、。
翌日、男はみんな度胸がないと蔑むような言葉をあびせられる、、、。
【それから】も【行人】ももう一度読んでみたくなりました。
早速、読もう!
漱石全集を引っ張り出してこよう。
過去ブログもいかがですか?