父からの手紙

息子へ

今は、新しい奥さんをもらったらしいじゃないか。
子どもも産まれて、幸せいっぱいだね。おめでとう。
顔や足はお前に似ているんだろうね。お前のうちの子はみんなお前に似てるから、見かけたらすぐにわかるかな。

おまけに、家を買ったそうだね。それも大きなログハウス。
父さんと母さんは、お前たちの学費やら何やらで、とうとう自分の家をもつことはできなかったが、どうかな?

自分の家ってのは?いい気分かい?

お前とは親子だが、これまでに一緒に杯を酌み交わすことが一度もなくて、ちょっとさみしいな。
今度また機会があったら、暑い日にはビールで乾杯しよう。寒い日は熱燗で。

その時は、父さんたちの昔話をしてやろう、話してない事がいっぱいあるから、お前が一人前になったら、ゆっくり話をしようと思っていたんだよ。母さんとの出会いとか、お前が産まれたときのことなんかをね。


一緒に旅行もしなかったから、今度は予定を立てて、行くことにしよう。
これまで一緒にどこかへ行ったことというと、船橋のヘルスセンターぐらいだったかな?
あとは近くの川で小魚を釣りに行ったぐらいだろう。

船橋の海では、父さんが足をカニかなんかに切られて、お前に吸ってもらったことを覚えているよ。おまえは嫌そうな顔をしてた。
でも懸命に毒を吸ってくれてありがとう。
父さんの足はそのころ水虫だらけだったから、さぞかし気持ち悪かっただろうね。

出かけるよりも、家の中にいる方が好きだったから、お前が小学生の頃は日曜日はいつも家族でトランプやマージャンをしていたのを思い出すね。

お前の弟は、いつもまけて便所にしばらくこもってたね。
隠していても、ほっぺたに涙の線がついてるから、わかるからね。
よほど負けるのが悔しかったんだろう。

麻雀の途中で、競馬中継が始まると、父さんはそれに夢中になったもんだ。

そのころは研究中だったから、馬券は買っていなかったけど、真剣だったんだよ。 
そのあと、ちょっと金銭的にゆとりができてからは、馬券を電話で飼うことができて、競馬を見る楽しみが何倍にもなったよ。

お前は、競馬はやらないのかい?

お母さんから聞いたけど、お前はえらく派手にクルマを乗り回しているそうだな。ちょうどお母さんがどこかに友だちと出かけているとき、ちょうど黄色のオープンカーが近くを走り抜けていったとき、母さんの友人が、

「かっこいいわねえ、どんな人が乗ってるのかねえ?」
と聞くので、母さんは、
「あれ、うちの息子よ。」
といってやったって。
これは、痛快だな。母さんの得意げな顔が目に浮かぶね。

孫たちへ

1番上の娘は、どうしてるかな?
旦那とうまく合わなくて、分かれたって聞いたけど、心配だな。

一番信頼しようと思った人と別々になってしまうんだから。深い話ができる人が近くにいるといいけどな。
いつでもお前のところに会いに行けばいいのに、お前から連絡して来てもらったらどうだい?

2番目の娘は、結婚して子どもも産まれたってきいたけど、元気なのか?3人目のひ孫だ。
しかも初めての女の子。

あの子はしっかりしていて、みんなから期待されて、学校でもリーダーとなって活躍していたから、心配ないけど。
旦那さんの写真を見たら、役者みたいに甘いマスクで、いい男だった。
きっと娘も美しくなるな。

3番目の娘は、もうとっくに結婚して、子どもも二人いるし、なかなか生活力があっていい娘だね。結婚式もやればよかったのにね。
父さんはこの娘が一番かわいかったよ。

そのうち大きなプレゼントをしたいと思っている。
ひ孫が二人もいてうれしいよ。
もうすぐ小学校に入学するから、ランドセルを鹿の革でこしらえてプレゼントしてやればいいんじゃないか?

4番目の娘は、どうしてる?
お前が「お姫」って呼んで、いつも過保護にして、特別扱いだったから、アルバイトのときに、失敗をあやまれなくて大変だったらしいじゃないか。
今もきっと、自分のパートナーにいろいろな注文をつけたり、難癖付けたりしていまだにお姫なんじゃないかと心配だ。

ほかの兄弟の誕生日でも、ケーキを一番先に選ばせたり、何でも一番にしていたりしたから、わがままになってしまったんじゃないかな。

5番目の娘は、きちんと大学を出て元気にやっているかな?
一番下の娘だから、甘えん坊だけど、自分に向いた仕事を見つけられたらいいとお父さんは思っているよ。素晴らしい名前をもらって、うれしいんじゃないかな。

いろいろ複雑な事情で、お父さんはお前たちと一緒にいられなかったけど、どの子も、深く愛しているし、誰がいちばんかなんて、そんなのもないよ。みんなが自分の人生を自分のやり方で楽しめればいい。

有名にならなくたって、尊敬される仕事じゃなくたって、お金持ちじゃなくたっていいよ。
毎日を懸命に、明るく前向きに生きて欲しと思っています。
そのうちみんなにも会えることでしょう。

その時はおおいに笑って、食べて飲んで、語り合いましょう。
友達や家族もみんな連れて、お父さんに会いにおいで。特別美味しい料理をご馳走しようじゃないか。

末の息子は、学校の先生になりたくて、勉強中だと聞いたよ。ゆっくり勉強して、豊かな人になって子どもたちを導いてあげられたらいい。
20才になるまでもう少しだから、お父さんたちは体調を万全にして、来るのを待っています。
一緒に酒盛りしよう。

愛してるBOYよ。

再び息子へ

言い忘れてたが、お前の2番目の息子は、私の近所に住んでいるよ。

彼女と結婚して、子どもも出来たし、何の不自由もなく暮らしているから心配しないでいいよ。
たまに様子を見に行って、日本酒をごちそうになっているよ。

近いうちに、会えると思うから、それまでは元気でいるように。
来る時には何も持ってこなくていいぞ。土産は、言葉通りまさに「みやげばなし」だけでいい。

ただ来るときには、お前ひとりで来るようにしなさい。誰にも知らせないで。
急に来ても大丈夫だ。いつも家にいるからな。

父からの手紙” に対して2件のコメントがあります。

  1. BLACK EYE より:

    「ワタシ、あなたに会えて…ホントに嬉しいのに…当たり前の様にそれら全てが悲しいんだ。

    …今、痛いくらいに幸せな思い出が…いつか来るお別れを育てて歩く…」

    …米津玄師氏の「アイネクライネ(女性形の主格で小さな夜の歌)」 は素晴らしく…なんだか初恋の時の様な曲で有りながら、事情関係なく全ての愛に対して投げ掛ける歌です。

    出だしで全てが要約されている曲って凄いと思う…

    「だからお父さんは凄い」…なぜ?

    何故ならば、お父さんはいつか来るお別れの為に…みんなが迷わない様に頑張ってるから。

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